漢検1級を実践形式で勉強したい!どの参考書を使うべき?
問題集を探していたら本試験型が2つあった…!どんな違いがある?
自分に合った本試験型を選んで効率よく合格に近づきたい!
本記事では、このような疑問や要望をサポートします。
言わずもがな、漢検1級の勉強プロセスとして実践形式のトレーニングは必要不可欠です。頻出問題を押さえた本試験型の問題をたくさん解くことで、1級の基礎体力を養うことができます。
そんな本試験型の問題集として知られているのは、成美堂出版のもの(以下「成美堂」)と新星出版社のもの(以下「新星」)の2種類。
私は1級合格までに両方の問題集に取り組んできました。どちらも同じ「本試験型」ですが、もちろんそれぞれに特徴があります。
この記事では、さまざまな観点から成美堂と新星の2種類の本試験型を比較&レビューしていきます。
読み終わる頃には「2つの本試験型にどのような違いがあるのか」や「自分にはどちらが向いているのか」が明確になることでしょう。
簡単に結論を述べると、
・本試験型1冊目なら成美堂がオススメ
・新星は入念な基礎訓練をしたい人向け
という感じになります。
以下、その根拠となる比較結果も含めて詳しく説明していきます。要点だけ知りたいという人は「総合評価とオススメ!」に飛んでいただければ時短です。
本試験型の徹底比較!
まず、内容面に入る前に表面的な情報を記載しておきます。
成美堂の装丁と正式名称はこちらです。
本記事での識別カラーは表紙に合わせて青とします。価格は税込1,210円です。
一方、新星の方はこちら。
表紙は茶系ですが、識別カラーは赤とします。価格は税込1,705円です。
価格面では成美堂の方がリーズナブルです。
加えて、成美堂の方は「開きやすい特殊製本」を採用しているとも明記されています。
次に、内容の方に移っていきましょう。
模擬試験について
まずは模試についての比較を行います。
それぞれのセット数は、次のとおりです。
成美堂:17セット
新星:20セット
特筆事項として、新星の20セットには以下のような下位分類があります。
- 3セットの「超よく出る模擬試験」
- 17セットの「よく出る模擬試験」
過去12年分の問題データから、とくに頻出のものを集めたのが「超よく出る」の3セットです。
なお、「よく出る」の17セットの中でも「超よく出る」と同じ出題が見られます。全セットを1周するだけで最重要な漢字を反復学習できる仕組みというわけですね。
ちなみに成美堂ではすべての問題に解答欄が設けられていますが、新星の方は文字が少し大きいせいか文章題の解答欄がありません(もちろん解答用紙ページにはあります)。
なので、問題下の解答欄にガンガン書き込みたいタイプの人には新星は使いづらいかもしれません。
最後に、問題の難易度については両者に大差なしです。
どちらも試験形式で頻出漢字をズンズン押さえていくスタンスになります。こういった性質上、両者ともに本試験の問題よりも難易度は低いです。
解答解説について
続いて、解答解説の比較です。
まず、成美堂は別冊解答で、新星の方は本体との一体型となっています。
どちらも解答解説は見開き1ページにまとまっており、全問に解説があるわけではありません。両者とも、設問ごとにいくつかの問題をピックアップして意味の解説がなされています。
とくに成美堂の方は、問題文から意味が明らかな下記2つの設問については解説をスパッとカットしています。
(三)語選択・書き取り
(四)四字熟語 問2
また、成美堂は四字熟語の問1の10問については必ず解説を設けています。対義語や類義語の補足が付されている場合もあります。新星は一部の解説で、意味の記載のみです。
なお、成美堂にも新星にもコピーして使える解答用紙が収録されています。
とくに成美堂の解答用紙は別冊の小冊子に含まれているのでコピーするのが非常に楽でした。
ついでにレイアウトについても書いておきます。
成美堂の方は解説にグレーの背景色があり、解答と解説のメリハリがあって見やすいです。
新星の方には若干文字が大きいという見やすさがあります。
巻末付録について
最後の比較項目は巻末付録です。“巻末”なので、付録は別冊ではありません。
それぞれの付録の内容は次のとおりです。
- 成美堂
国字、常用漢字表外音訓、四字熟語 - 新星
1級配当漢字表、四字熟語、故事・諺、国字
両者に共通なのが「国字」と「四字熟語」。
成美堂のオリジナル要素は「常用漢字表外音訓」で、新星のオリジナルは「1級配当漢字表」と「故事・諺」です。
以下、それぞれの特徴を見ていきましょう。
共通の国字と四字熟語
まず、両者に共通する「国字」と「四字熟語」についてです。
「国字」については、両者ともに1級レベルの120字が網羅的に解説されています。
その解説に関して、新星は端的なひと言(「〜のこと」など)でまとまっている一方、成美堂は詳しめの文章で書かれています。
また、成美堂には、岩波書店『広辞苑 第四版』、東京堂出版『国字の字典』を参考に解説していると明記されています。
続いて「四字熟語」ですが、こちらは両者にそこそこ開きがあります。
下図に示したとおり、成美堂の収録語数は260語、新星は196語です。カブっている項目は119語でした(2021年時点)。
収録語数の多さに加え、解説も成美堂の方が詳しめです。
基本、四字熟語の意味には「字面から推測しやすい元々の意味」と「元の意味から転じた実用的な意味」の2つがあります。
新星は「実用的な意味」の方をメインに記載しており、成美堂は「元々の意味」への言及も多くなされていました。
以上より、付録における共通のコンテンツは成美堂の方が充実しているといえそうです。
成美堂の常用漢字表外音訓
続いて、成美堂オリジナルの付録「常用漢字表外音訓」についてです。
この付録には全部で234の常用漢字が掲載されています。
内容は以下の3点セット。これらが表形式で列挙されています。
- 見出し字
- その表外読み
- その用例
付録名には「音訓」とありますが、ほとんどが訓読みです。用例は端的にまとまっています。表外読みが多いものについては用例が一部省略されている場合もあります。
必ずしも「表外読み=難解な古語」というわけではなく、日常的に使う言葉について「この漢字で表せるんだ!」と発見が得られるような内容でした。
1級の勉強をしていると、わりと頻繁に常用漢字に出会うことに気づきます。そして意外とよく間違えます。「常用漢字表外音訓」はその手の不意打ち対策に有効です。
個人的な経験として、過去に本番で間違えた表外読みがこの付録に載っていた…ということもありました。
こういった点から、不意を突く常用漢字問題への対策として成美堂の「常用漢字表外音訓」は有用なコンテンツだといえます。
新星の1級配当漢字表と故事・諺
最後に、新星オリジナルの付録「1級配当漢字表」と「故事・諺」についてです。
1級配当漢字表
「1級配当漢字表」は、その名のとおり1級配当のすべての漢字が掲載された表になります。
その構成は、以下のとおりです。
- 見出し漢字
- その読み
- 用例や意味
見出し漢字とその読みについては、漢検協会の公式教材に記載されているもの(たとえば『漢検1級 分野別 精選演習』)と同様です。掲載順についても同様で、部首順となっています。
新星に特有の面としては「用例と意味の記載」が挙げられます。
ただ、用例が熟語の羅列だったり、意味が読みと同じだったりするのでそこまで利便性は高くなかったです。
一方、赤字の振り仮名がついているのは良かったと思います。赤シートさえ持っていれば全1級漢字の読みのテストが可能です。
故事・諺
最後の項目は「故事・諺」。1級受検にあたってとくに学んでおくべき96の故事成語・諺がまとまっています。
構成はシンプルに見出し語と意味です。
先述のとおり、新星の付録には「全体的に赤字で振り仮名がつけられている」という特徴があります。赤シートがあれば読み方のテストとしても活用できる仕様です。
そして「故事・諺」についても、見出し語の漢字部分にはすべて振り仮名が付されています。
経験上、故事・諺の勉強では、問題部分以外の読み方が曖昧なまま学習を進めてしまうことがあります。
たとえば「惻隠の心は仁の端なり」に関して、問題となる「惻隠」は書けるのに「端」は「はし」なのか「たん」なのか、はたまた「はた」なのか、とくに気にせず全体の意味だけを押さえるということがありました(正解は「たん」です)。
こういった事態を防ぐ効能が新星の付録にはあります。
つまり新星の「故事・諺」は、読み方にモヤモヤすることなく基本項目を迅速に習得できるという点がメリットだといえます。
以上、成美堂と新星の本試験型の比較でした。
総合評価とオススメ!
ここからは、これまでに比較した3つの観点(模試本体、解答解説、巻末資料)に基づく総合評価、そしてそれに基づくオススメの対象者について書いていきます。
総合評価は成美堂が◎!
まずは総合評価です。
評価の結果については、次の3段階を設定しました。
- とてもいい!… ◎
- 普通にいい!… ◯
- いまひとつ!… △
さきに結論をまとめると、総合的には成美堂の方が優れていると思われます。
観点別の評価は、次のとおりです。
模擬試験:成美堂◎ 新星○
解答解説:成美堂◎ 新星○
巻末資料:成美堂◎ 新星△
念のためお伝えしておくと、私は成美堂出版の関係者ではありません。あくまで1人のユーザーとして上記の結論に至りました。
話を戻して、以下では観点別レビューの詳細をまとめていきます。
模擬試験:コスパがいい成美堂◎
まずは、模擬試験のレビューです。
評価はわずかの差で「成美堂◎、新星○」としました。
どちらもメインコンテンツの内容については問題なかろうと思います。
セット数については成美堂が17セット、新星が20セット。問題数は新星の方が多いですね。
一方、成美堂は税込1,210円、新星は税込1,705円なので、成美堂はコストパフォーマンスに優れているといえます。
新星の「超よく出る」と「よく出る」の区分については、1級を目指す以上、最終的には全セットを徹底しなければならないので必要性は感じませんでした。ただ、反復を自動化するような工夫はありがたいと思います。
以上を総合して「成美堂◎、新星○」としました。
解答解説:使い勝手がいい成美堂◎
次は解答解説です。
評価は「成美堂◎、新星○」としました。
どちらもほどよい解説だと思います。
+αで優れた点として、成美堂の方は解答解説が別冊になっており、かつ解説にメリハリがあるのがよかったです。
問題と見比べながら答え合わせができたり解答用紙がコピーしやすかったり、ユーザー視点で作られているという印象を強く受けました。
新星に目立った欠点はないですが、+αの使いやすさを加味して「成美堂◎、新星○」としました。
巻末付録:充実度が高い成美堂◎
最後に巻末付録です。
評価は「成美堂◎、新星△」とします。
共通の「四字熟語」は、成美堂の方が質も量も優れているといえそうです。
「国字」についてはそこまで大きな差はないと思います。
オリジナルの要素(成美堂「常用漢字表外音訓」、新星「1級配当漢字表」と 「故事・諺」 )については比較のしようがありませんが、新星の付録にある赤字の振り仮名はありがたい配慮でした。
ただ、新星の付録には重大な問題もあるように思えます。
とくに「1級配当漢字表」についてです。
1冊で1級漢字を調べられるのはよいのですが、もともと“よく出る”問題をたくさん解くタイプの教材なので、配当漢字をすべて付録化する必要はないような気がします。公式の参考書に一覧表がある点を考慮すると、なおさらです。
せっかく過去12年分の問題を分析したのなら、それこそ“よく出る”配当漢字に絞ってまとめる方がコンセプトに一貫性があり、納得できます。
現状、新星の付録の8割近くが「1級配当漢字表」に割かれているので、ここを改善すれば他の分野を充実させることもできそうです。
以上を総合して「成美堂◎、新星△」としました。
最初の一冊は成美堂で!
最後の最後に、オススメの対象者についてです。
おさらいすると、観点別の評価では以下のような結果になりました。
模試本体:成美堂 ◎ 新星 ○
解答解説:成美堂 ◎ 新星 ○
巻末資料:成美堂 ◎ 新星 △
以上より、本試験型1冊目としては成美堂を一番にオススメします。
新星については「本試験型2冊目として基礎訓練を徹底したい!」という人や、「成美堂に取り組んでからブランクが空いてしまった。心機一転、頑張りたい!」という人が使うとよいでしょう。
ダメ押しの2冊目としては、新星の方も十分オススメできます。
漢検1級の本試験型・まとめ
以上、漢検1級の本試験型「成美堂」と「新星」の比較レビューでした。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
本記事をまとめると、次のようになります。
成美堂
コスパよし!使い勝手よし!付録よし!
本試験型1冊目のビギナーにオススメ!
新星
反復の工夫よし!付録の振り仮名よし!
1級配当漢字表は盛大な蛇足の感あり…
ダメ押しで再学習する人には使いよう!
注意点として、たとえ両者の問題をすべてマスターしても1級合格は不可能です。
本試験型はあくまで基礎力を上げる教材なので、その点はしっかり認識しておきましょう。ちなみに本試験型の先のステップについては、以下の記事にまとめています。
1級合格までの道のりは長く険しいものです。
本試験型をうまく活用して、ぜひとも初合格に一歩近づいていただけたらと思います。
それでは。ファイト!
コメント