多読をやっているけど単調になってきた。どうにかマンネリ化を打破したい!
語数は積み上がっているのに成長が感じられない。ちょっくら多読にテコ入れしたい!
たくさん読むばかりで理解が追いつかない。高い理解度を伴った多読をしたい!
本記事では、このような要望をサポートいたします。
本来、一心に英語を読みまくり、左から右へ英文をサクサク処理するのが「多読」というもの。
辞書も文法書も使わず、ただひたすら英語をインプットするのが多読の基本です。
そういった性質上、多読をやってみると、たんに字面を追うだけの読み方になったり、読んだ語数だけが増えて内容理解が不十分だったりすることもあります。
とくに多読そのものに慣れてきたミドル級の学習者には、このような問題に悩まされている人が多いかもしれません。
そういった方にオススメなのが「和洋併読」です。
「和洋併読」は筆者の造語で、翻訳書と原書を同時並行で読んでいく多読スタイルになります。
多読500万語をクリアして燃え尽き気味だった筆者が、うまいことペースを回復させた会心の一手です(下図参照)。
以下では、そんな「和洋併読」のやり方やメリット(学習効果)についてまとめたいと思います。
和洋併読ってどんな読み方?
まずは「和洋併読」のやり方についてです。
和洋併読のやり方
和洋併読の基本は「翻訳書を読んでから原書で同じところを読む」というもの。
翻訳書をすべて読んでから原書に入るのではなく、細かく区切って(たとえば1章ずつ)翻訳書と原書を交互に読んでいきます。
筆者の場合だと、基本的に「翻訳書を1章だけ読んだら原書へ」というのを繰り返していきました。
そもそも1章が長すぎるような作品では、行間が空いているところや場面が変わったタイミングで切り替えるとよいでしょう。
和洋併読の注意点
続いて、和洋併読の注意点をまとめます。
大切なのは次の2点です。
- 普段の多読と同じルールで読む
- 対訳の参考書より翻訳書&原書
以下、それぞれについてサクッと解説します。
普段の多読と同じルールで読む
和洋併読は、あくまで「多読」の一環として実施するイメージです。
さきに翻訳書に目を通すという一点を除き、読み方は多読のルールにしっかり従いましょう。
ちなみに、以下の3つが有名な多読三原則です。
- 辞書を引かない
- わからない所は飛ばす
- つまらなくなったら別の本へ
後述しますが、和洋併読では初見の単語の意味がわかったり、話の流れがスムーズに理解できたりします。
翻訳書で大まかなイメージを構築すれば、いつもの多読と同様、辞書も文法書も必要ありません。
普段と変わらないスピード感で、前のめりに内容を理解する楽しさを味わってみてください。
対訳の参考書より翻訳書と原書
2つ目の注意点として、和洋併読では「翻訳書と原書」の“2冊”を使用しましょう。
とくに有名な本や歴史的名作だと、1冊で日本語版と英語版が読める「対訳の参考書」も存在します。
かなり便利な参考書ですが、このような本では紙面に文章以外の情報があることが多いです。どちらかというと精読向きだといえます。
和洋併読はあくまで多読なので、日本語と英語はしっかり切り分けて余計な誘惑のないまっさらな状態で読むのがよいです。
また、対訳の参考書のなかには学習用に英文をやさしく改変しているものも多くあります。
多読に慣れてきた人であれば、やはり洋書は原文で読みたいのではないでしょうか。
この点からも、和洋併読は「翻訳書と原書」でトライするのが最適だといえそうです。
以上、和洋併読のやり方と注意点でした。
続いて、和洋併読のメリット(学習効果)とデメリットについてまとめます。
メリットは内容理解の向上!
まずは、和洋併読のメリットについてです。
ひと言でいうと「内容理解の向上」。
大きく分けると次の4点にまとめられます。
- 内容に置いていかれない
- 辞書なしで単語力アップ
- 文章の緩急までつかめる
- 純粋に読み比べが楽しい
以下、それぞれ詳しく解説していきますね。
内容に置いていかれない
和洋併読の一番のメリットは「内容に置いていかれない」という点です。
日本語で一読してから英文を読むわけなので、母語で理解できる内容であれば漫然と字面を追う事態にはなりません。
とくに小説ではこの効果が絶大です。
筆者の実体験として、『The Alchemist』という小説を読んだときには「いま主人公はどこを歩いているのか」や「誰と話しているのか」など、基本的なところで頭がこんがらがることが多くありました。
原書だけを読んでいる場合、このような事態は甘んじて受け入れるしかないでしょう。
しかし『The Midnight Library』で和洋併読をしたときには、あらかじめ情景が豊かにイメージされた状態で原書にあたることができ、初歩的な混乱はなくなりました。
内容がスッと入ることで無駄なストレスがなくなると、頭の中でプラスアルファの処理をする余裕も生まれます。
以降で紹介する「単語力アップ」や「緩急のキャッチ」は、その余裕が生み出す学習効果の最たるものです。
辞書なしで単語力アップ
和洋併読をすると「辞書いらずの単語力アップ」が期待できます。
だいたいの内容が頭に入ったうえで英文を読むので、知らない単語(や表現)でも意味をとりやすくなるというわけです。
普通の多読では「とにかく読む」が鉄則なので、新しい単語が身につくことはそこまでありません。
また、よくわからない表現がポコポコ出てくると読むペース自体が乱れてしまうことも多いです。
しかし和洋併読をすれば、その本によく出てくる未知の単語を覚えることができ、単語力不足によるペースの乱れも軽減されます。
さらに、ある程度できあがったイメージに初見の単語が結びつくわけなので、その単語は記憶にもよく定着するでしょう。
参考として、和洋併読によって効果的に覚えられる単語(や表現)をパターン化してみました。
次の3パターンです。
- 初見の単語(とくに具体名詞)
- かつて覚えた忘れかけの単語
- 自然な表現や会話特有の表現
以下、これらについて具体例を挙げて説明していきます。
初見の単語(とくに具体名詞)
少し背伸びしたレベルの洋書を選ぶと、知らない単語が頻繁に出てきたり、生物名や道具名などの特殊な具体名詞で混乱したりすることがよくあります。
和洋併読なら、初見の単語もまったく怖くありません。
筆者の例だと「banknote(紙幣)」や「barley(大麦)」、「walrus(セイウチ)」など、単語帳ではなかなか見かけない単語を辞書なしで吸収することができました。
なにより「細かい具体名詞の意味がしっかりとれる」というのは和洋併読のありがたい効能です。
かつて覚えた忘れかけの単語
初見の単語だけでなく「かつて覚えたのに今はご無沙汰の単語」や「うろ覚えの単語」なども和洋併読によって定着しやすくなります。
そんな忘れかけの単語に出会えると思い出した感が強く喚起され、なぞの爽快感があって心地よいです。
筆者の例だと「halt(止める)」や「pretentious(気取った)」、「iridescent(虹色の)」などを読みながら思い出しました。
自然な表現や会話特有の表現
とくに小説の和洋併読では、日常性のある「自然な表現」や「会話に特有の口語表現」を知ることができます。
たとえば「buy ~ mainly for …(…目当てで〜を買う)」や「That’s our current debate.(それで最近よく言い争う)」など、日本語を介したからこそ噛み締められる表現に筆者はよく出会いました。
そのほか「Of course.」を「Course.」と言ったり「I have posted ~」を「Have posted ~」と言ったり、会話ならではの省略に気づくことも多かったです。
以上、和洋併読の2つ目のメリット「辞書いらずの単語力アップ」の詳細でした。
もちろん、習得できる単語の多くはその本に特化したものなので、和洋併読で劇的に語彙力がアップするというわけではありません。
ここでの「単語力アップ」はあくまで「プラスアルファの単語力アップ」であるという点を強調しておきます。
文章の緩急までつかめる
和洋併読の3つ目のメリットは「文章の緩急がつかめる」です。
淡々と事実を述べたあとに小粋なジョークが添えられたり、ありふれた会話のなかで格言のようなキラーフレーズが出てきたり…。
ノンフィクションにしろ小説にしろ、得てして文章には「緩急」がありますよね。
ただ、原書だけを読んでいると、英文の処理に頭を使いすぎて緩急が見出せないこともしばしば。すべての文章を場当たり的に処理していく感じなので、含みを楽しむ余裕はあまりありません。
一方、和洋併読では、あらかじめ翻訳書のほうで文章の緩急をキャッチすることが可能です。それによってある種の心構えができ、原文の温度感の変化もしっかり認識できます。
ときには心に残る表現にも出会わせてくれる「緩急」のキャッチ。
その面白さについても、3パターンに具体化してみました。
- ジョークや名言を楽しめる
- 事例のインパクトが強まる
- グッとくる主張に出会える
以下、これらについて深掘りしていきます。
ジョークや名言を楽しめる
英文中にジョークを読み取れたら、ひとつ上のステージに行けたようでクールですよね。
洋書を単独で読むと文章の温度差をつかむのが難しいですが、和洋併読ではジョークもしっかりキャッチできます。
また、平然とした会話にひそむ名言のようなセリフにも引っかかりやすいです。
参考として『Sapiens』という本で見つけたお気に入りのジョークをシェアしておきます(原書だけを読んだときは「key」のくだりは何かのイディオムだと思っていました)。
… we all know that the brain’s retrieval system is amazingly efficient, except when you are trying to remember where you put your car keys.
Yuval Noah Harari(2015). Sapiens: A Brief History of Humankind. HarperCollins Publishers.
… 脳の検索システムが驚くほど効率的であるということは誰もが知っている。ただし、車のキーをどこに置いたのかを思い出そうとしているときは別だが。
ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)(2016)サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福 河出書房
事例部分にものめり込める
とくにノンフィクションの多読の場合、本来であれば内容をわかりやすくするはずの事例部分でつまずくことが多くあります。
基本、何らかの主張のあとに具体例を挙げるのが論理的な文章の王道です。そして話が具体的になればなるほど、汎用性の低い単語が多くなってきます。
しかし、先述のとおり和洋併読では「初見の単語もなんのその」です。
原書だけを読んでいたらリズムが崩れるような事例部分も、インパクトを伴ってガッツリ享受できます。
グッとくる主張に出会える
「緩急」をキャッチする3つ目の面白さは「グッとくる主張に出会える」というもの。
さきほど挙げた「ジョークや名言のキャッチ」に近い感覚ですが、こちらはより共感や学びを得られるようなイメージです。
たとえば、以下の2つの主張は個人的にグッときました。
I can be obese without your dying of hunger.
Yuval Noah Harari(2015). Sapiens: A Brief History of Humankind. HarperCollins Publishers.
他人を飢え死にさせなくても、人は太ることができる。
ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)(2016)サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福 河出書房
I hit rock bottom and found something solid there.
Matt Haig(2020). The Midnight Library. Canongate Books.
本当にどん底まで落ちてみたら、実はそこの床が、びっくりするくらい頑丈だったの。
マット・ヘイグ 浅倉卓弥(訳)(2022). ミッドナイト・ライブラリー ハーパーコリンズ・ジャパン
どちらも原書だけを読んだときは引っかかりませんでしたが、翻訳が刺さったあとに読むと「くぅぅぅぅ〜!」ってなりました。笑
以上、和洋併読の3つ目のメリット「文章の緩急までつかめる」の詳細でした。
緩急ある読書ができれば、多読はいっそう充実したものになりそうですね。
純粋に読み比べが楽しい
和洋併読のメリット、ラスト4つ目は「純粋に読み比べが楽しい」です。
内容理解とは少しズレますが、翻訳書と原書を読み比べることで「翻訳の妙技」を肌で感じることができます。
あくまで「多読」として読んでいても気づける日本語版と英語版の伝え方の違い。
個人的に面白いと思ったポイントは、次の2点です。
- 訳し方の美しさ
- 情報の足し引き
以下、それぞれについて具体的に説明します。
訳し方の美しさ
1つ目の面白ポイントは「訳し方の美しさ」です。
和洋併読をしていると「この表現をそんなふうに訳すのか!」と感嘆することが多くありました。
たとえば「have already seen it all」が「酸いも甘いも噛み分けた」と慣用句で訳されていたのは美しかったです。
そのほか「Pulling back the blanket …」という文が「毛布をもう一度顎のところまで引きずりあげ…」と視覚的に訳されていたのも印象的でした。
きらりと光る翻訳家の表現力を体感できるのは、和洋併読ならではなのではないでしょうか。
情報の足し引き
読み比べにおける2つ目の面白ポイントは「情報の足し引き」です。
日本人が読むことを考慮して情報を付加したり、固有名詞をあえて一般的な単語に言い換えたりといった心遣いに気づくことが併読中にはよくありました。
たとえば、原書では比喩のために名前だけが出てきた「Rip Van Winkle」に注釈が付されていたり、「Blackfriers station」を「ロンドンの地下鉄の駅」と言い換えていたり。
情報をわかりやすく伝えようという読者視点のものづくりにはあっぱれですね。
最後に、気づいた瞬間にとくに感動した「情報の足し引き(というより言い換え)」をシェアしておきます。
Worldwide, wheat covers about 2.25 million square kilometres of the globe’s surface, almost ten times the size of Britain.
Yuval Noah Harari(2015). Sapiens: A Brief History of Humankind. HarperCollins Publishers.
世界全体では、小麦は二二五万平方キロメートルの地表を覆っており、これは、日本の面積の約六倍に相当する。
ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)(2016)サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福 河出書房
以上、和洋併読の4つのメリットでした。
続くラストはデメリットの話です。
個人的にはメリットのほうが圧倒的に大きいので、和洋併読に興味が湧いた人はとりあえず1作品だけ挑戦してメリットを味わってみるとよいですよ。
デメリットはコストの高さ!
たくさんのメリットがある和洋併読ですが、どうしてもコストの面では一般的な多読に劣る部分があります。
ズバリ「時間的コスト」と「金銭的コスト」の問題です。
直感的にわかることではありますが、これらのデメリットについても簡単にまとめておきます。
和洋併読は時間がかかる
言うまでもなく、和洋併読は多読よりも時間がかかります。
体感としては普段の多読の1.5〜2倍くらいです。
語数や冊数を積み上げていくのも多読のモチベーションの1つなので、いつもと同じ時間で半分くらいしか読めないのはそれなりに苦しいでしょう。
この点から、すでに「数」の面で満足できている人のほうが和洋併読は続けやすいかもしれません。
ひとつ希望を見出すとすれば、和洋併読で一巡した本はかなり読みやすくなります。そのあとに再読を繰り返せば、補助輪を外した自転車のようにスイスイ読み進められるはずです。
そう考えると、費やした時間的コストは十分回収できそうに思えます。
和洋併読はお金もかかる
和洋併読の2つ目のデメリットは「金銭的コスト」が高いということ。
基本的に2冊の本を使うので、支払うお金も倍額になります。場合によっては翻訳版が上下巻になっていることもあり、単行本しかない作品だとなかなかの出費です。
多読にチャレンジするほど向学心のある方なら、自己投資として本を買うことに抵抗はないかもしれません。
それでも「まずは安価でトライしたい!」という人には、安くてコンパクトな文庫本を活用するのがオススメです。
たとえばヘミングウェイの『老人と海』は、翻訳版の文庫はもちろん、原文の文庫本も発売されています(講談社英語文庫というシリーズです)。
文庫本2冊であれば、1冊の単行本より安く手に入りますね。
また、文庫化されている作品は間違いなく名作。教養として読みがいのあるものばかりです。
金銭的コストが気になる方は、まずは小さくインテリジェントに始めてみるとよいかもしれません。
和洋併読で多読に新しい風を
以上、和洋併読のやり方&メリットとデメリットでした。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回の内容をまとめると、以下のようになります。
和洋併読とは…
一般的な多読のルールに従って
翻訳書のあとに原書を読むこと
(1章ずつ細かく区切って交互に)
そのメリットは…
内容に置いていかれない
辞書なしで単語力アップ
文章の緩急までつかめる
純粋に読み比べが楽しい
一方のデメリットは…
時間がかかる
お金もかかる
多読を続けていると「英文の処理はできているけど内容理解がおぼつかない」や「このまま語数だけ貯まっていって意味があるのか」などとモヤモヤすることもあるでしょう。
筆者自身、数として500万語以上の英語を読んでも、理解度への不満や「このさきもちゃんと成長できるのか」といった疑問は尽きません。
同じような悩みを抱えて多読がマンネリ化している人に、和洋併読の楽しさが伝わっていれば幸いです。
ぜひとも和洋併読で多読に新しい風を吹かせ、これまで以上に魅惑の洋書ワールドを深く味わってみてください。
それでは。Enjoy!
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